東京地方裁判所 昭和38年(ワ)5398号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕ところで、右通行地役権設定の後に、承役地である本件通路の所有権が荻野から能島清子(さらに同人から被告内山)、竹田新吉(同人を被告竹田らが相続)の両名に譲渡されたこと、それにもかかわらず右通行地役権が登記を具備していないことは当事者間に争いがないから、一応これを被告らに対抗できないものといわなければならない。そこで、この点に関し原告らの権利濫用の主張について判断する。
(イ) ……によれば、竹田新吉および被告竹田らの一家は、昭和九年以来A土地と本件通路をへだてて所在する三番一六の土地に居住しており、もともと本件通路はこれに隣接する土地の居住者が通路として利用しており、原告らもA土地を買受けて以来C土地を売却したのちにおいても引続き通路としてこれを使用していることは十分知つていたこと、しかも自らは他の共有者からの異議の申立がないのをよいことにして本件通路上に原告の出入口に面して工作物を張り出し、該部分の通路の幅を狭めていることが認められる。
(ロ) ……によれば本件通路は当初右能島が単独で買受けることになつていたものであるが、原告政夫が共同で買受けたいとの希望を荻野の差配に申出た際、同人は、本件通路の最も奥の部分の土地(三番三)を買受ける能島が同時に本件通路を譲受けるのであるから、他の人の通行には差しつかえがないと述べ、能島も原告政夫の通行を許容する旨明言したので、同原告もしいて共同買受人になろうとはしなかつたこと、その後竹田新吉が共同で買受けることを望んだので、結局能島と竹田の両名で買受けることになつたこと、および本件通路の共有者である能島および被告内山は原告らの通行を許容していることが認められる。
(ハ) また、……によれば、A土地には原告久夫居住の建物が、B土地には一階倉庫、二階住居の建物があり、右倉庫への荷物(クリスマスカード、年賀葉書などの入つた手でかかえて持運び得る程度の大きさの段ボール)の出し入れが日に二、三回行われ、本件通路へ車を乗り入れたり、ここで荷物の積みおろしをすることもあつたことが認められる。
(ニ) さらに検証の結果によれば、現在B土地とC土地との境界にはブロツク塀が設置されており、AB両土地の建物は本件通路から出入りするようにその玄関が付置され、右両建物の間げきは約六〇センチメートルしかなく、その間を通りぬけることは困難であることが認められるから、新たにC土地に通路を開設しなければならないとするならば、ブロツク塀の一部撤去はもちろん、右両建物の改築も必要になることは明らかである。
以上の事実を総合判断すれば、被告竹田らは原告らの本件通路の通行の事実を十分知つた上でその所有権を取得したものであり、もともと通路として使用されている土地であるから、原告らの通行によつて何ら損害を被る訳ではなく、しかも原告らの使用方法も、現在の都会の共同生活においてはやむをえないと考えられる程度を越えているものとはいえないばかりか、原告らがここを通行し得なくなつた場合の損害、不利益は被告竹田らが被るであろう日常生活上の多少の不便さに比べると、はるかに大きなものであるから、被告竹田らが対抗要件のけんけつしていることを理由にその通行を妨害することは(さらに、他の共有者は通行を認めているのに、被告竹田らだけがこれを拒否する態度に出ているのである)、殊更に原告を困惑さす目的をもつてその権利を行使するに外ならないことは明らかであるから、このような被告竹田らの態度は隣人としての相互扶助の精神――民法相隣規定の趣旨――にも反するものであつて、社会的に許容される限界を逸脱した権利の行使というべく、権利の濫用と目されてもやむを得ない。(田嶋重徳 加藤広 矢崎秀一)